Research
複数の化学物質による複合リスクを評価するための新たな評価法の開発
私たちは日常生活の中で、農薬や食品添加物など様々な化学物質に「少しずつ、同時に」複合曝露されています。個々の化学物質の量は安全基準値を下回っていても、複数が組み合わさったときに相加・相乗的に健康リスクを引き起こす可能性があります。ところが、現在の毒性試験は基本的に単一の物質しか対象としておらず、現実の複合曝露を反映できていない上に、本邦においては化学物質がヒトに及ぼす複合リスクに関する評価の方針や手法が定まっていません。

この課題にアプローチするための新しい考え方として、OECDが提唱した Adverse Outcome Pathway(AOP) があります。AOPは、化学物質が体内でどのように毒性を引き起こすのかを「分子 → 細胞 → 組織 → 個体」という階層で整理し、共通する作用点(Key Event)を見つけ出すことで、効率的にリスクを評価する枠組みです。
私たちの研究室では、神経毒性に関するAOP に注目し、複数の化学物質が共通Key Eventに与える影響を新しい細胞実験系(in vitroアッセイ)で評価しています。その上で、相加・相乗的な作用が予測される組み合わせについては、動物実験(in vivo)で高次脳機能への影響を確認し、複合リスクを明らかにすることを目指しています。
これらの成果は、環境省が作成を進めている「化学物質の複合影響評価ガイダンス(仮称)」にも貢献できると期待されており、複雑な現実の曝露状況を反映した次世代型リスク評価法の確立につながると考えています。
本研究は、環境省・独立行政法人環境再生保全機構 環境研究総合推進費 革新型研究開発(若手枠)【JPMEERF20245RA1】により実施しています。