研究内容

グリア-ニューロン相互作用を介した新たな神経毒性メカニズムの解明

 脳内の細胞の約8割を占めるグリアは、これまで静的な存在と考えられてきましたが、近年ではシナプスの形成や調節を通じて、神経細胞(ニューロン)の働きを積極的に支えていることが明らかになってきました。特に「ミクログリア」は、不要なシナプスを刈り込み、異常な物質を取り除くことで脳の環境を整えています。しかし、過剰に活性化すると炎症を引き起こし、それが神経疾患につながるリスク(神経炎症仮説)として注目されています。しかしながら、現在の毒性試験項目にはグリアに対する毒性作用を評価可能な指標は一切含まれておらず、化学物質がグリアに及ぼす影響についてもほとんど明らかになっていません。


そこで私たちは、

・化学物質によるグリア活性化の影響をハイスループットに評価可能な試験系の開発

・化学物質によるミクログリア-ニューロン相互作用の撹乱メカニズムの解明

・エクソソームに着目した新しいバイオマーカーの探索

に取り組んでいます。実際に、ある農薬代謝物がミクログリアを活性化し、そこから放出されるエクソソームに含まれる特定のmicroRNAがニューロンに移行し、神経の保護や突起伸長に作用することを見出しました(投稿準備中)。


こうした研究は、グリア活性化を起点とする神経疾患の病態解明や新たな神経毒性試験法の開発につながることが期待されます。